遺贈寄付の相談を受ける前に、非営利法人は受け取れる財産と判断手順を決めておく必要があります。遺言者の善意があっても、債務を含む包括遺贈や管理できない不動産を無条件に受け入れることはできません。
遺言者から団体へ直接財産を遺す方法と、相続人が受け取った財産を寄付する方法は、法律上も税務上も別の取引です。自団体の法人格だけで非課税になるとは案内できません。財産を渡す経路と遺言の内容に加え、財産の種類や相続人との関係を案件ごとに確認します。
この記事は、遺贈寄付の募集を始めたい非営利法人の役員と担当者を対象にしています。個別案件の法的・税務判断や遺言書の作成方法は扱いません。受入方針を作り、相談が来たときに弁護士や税理士へ渡す情報をそろえるところまでを整理します。
遺贈寄付は二つの経路を分けて考える
遺贈寄付という言葉は広く使われますが、団体が確認する経路は二つあります。誰の財産が、いつ、どの根拠で団体へ移るのかを最初に分けます。
| 経路 | 財産を渡す人 | 団体が確認すること |
|---|---|---|
| 遺言による直接遺贈 | 遺言者の財産から団体へ移る | 遺言の効力、遺贈の範囲、遺言執行者、債務、遺留分、みなし譲渡所得 |
| 相続財産からの寄付 | 相続人が取得後に団体へ寄付する | 寄付者の意思、相続税申告期限、対象法人、財産の使途、必要書類 |
直接遺贈は、遺言者の死亡時に遺言の効力が生じ、団体が受遺者になります。相続財産からの寄付は、相続人がいったん財産を取得した後、自分の意思で団体へ寄付します。相続人に適用され得る税の特例を、直接遺贈の説明へ流用してはいけません。
特定遺贈と包括遺贈で負う範囲が異なる
直接遺贈では、何を受け取るかによって団体の負担が変わります。遺言書に財産が特定されているか、財産全体に対する割合が示されているかを確認します。
預金一千万円や特定の不動産など、対象を指定するのが特定遺贈です。財産の全部や二分の一といった割合を示すのが包括遺贈です。民法上、包括受遺者は相続人と同じ権利義務を持つため、積極財産だけでなく債務を承継する可能性があります。
特定遺贈でも、抵当権のある不動産や管理義務を伴う財産はあります。「特定遺贈なら安全」とは判断せず、登記と契約を確認します。未払費用や紛争の有無も調べます。包括遺贈は財産目録と債務の全体像が分かるまで受入判断を保留し、弁護士へ確認します。
受遺者には遺贈を放棄する選択肢があります。団体の担当者は、相談を受けた時点で受入を約束せず、定款上の権限と理事会などの決裁手続を通して回答します。
遺留分は遺贈を自動的に無効にしない
遺留分は、一定の相続人に保障される最低限の取り分です。対象には配偶者や子、直系尊属が含まれます。兄弟姉妹には遺留分がありません。遺言で団体への遺贈が定められていても、相続人から遺留分侵害額の請求を受ける可能性があります。
現在の制度では、遺留分を侵害する遺贈が当然に無効になるのではありません。権利者は受遺者へ、侵害額に相当する金銭の支払いを請求します。そのため、団体が不動産を受け取った後に現金の支払いが必要になる場合もあります。
問い合わせ段階で相続人の同意を必須条件にするかは、団体の方針と案件によって判断が分かれます。ただし、推定相続人の存在と寄付者が家族へ意思を伝えているかは確認します。請求や異議が届いた場合は、財産を処分せず、遺言執行者と弁護士へつなぎます。
税務は相続税とみなし譲渡所得を分ける
税務では、誰にどの税が生じるかを分けます。法人が遺言者から直接財産を取得した場合、法人そのものには原則として相続税は課されません。ただし、持分の定めのない法人を使って親族などの相続税や贈与税を不当に減らす結果になる場合は、法人を個人とみなして相続税を課す例外があります。
土地や株式など含み益のある財産を法人へ遺贈すると、遺言者が時価で譲渡したものとみなされ、遺言者側の所得税が問題になります。公益を目的とする法人への現物寄付には、国税庁長官の承認により譲渡所得を非課税とする制度があります。ただし、対象法人と申請期限には条件があります。公益目的事業での使用も求められるため、認定NPO法人や公益法人なら自動的に非課税になる制度ではありません。
相続人が取得後に寄付する場合は、別の相続税特例があります。相続税の申告期限までに、一定の公益法人または認定NPO法人へ相続財産を寄付し、所定の書類を添付することなどが条件です。特例認定NPO法人や一般のNPO法人には、この認定NPO法人向け特例は適用されません。受贈財産を所定の事業へ使わない場合など、後から適用対象外になる条件もあります。
受け手となる法人の会計や法人税も、法人格と財産の使途で変わります。団体は寄付者へ非課税を約束せず、遺言者側と団体側の税理士が、それぞれの課税と申請を確認できる体制を作ります。
現物資産は負担を調べてから判断する
現金は金額と使途を確認しやすい一方、現物資産には取得後の費用と責任があります。売却できそうかだけでなく、取得してから処分するまで団体が負うものを確認します。
不動産は権利と維持費を確認する
不動産では、名義と共有者を確認します。抵当権や賃貸借に加え、境界と占有者も調べます。固定資産税と管理費を見積もり、修繕や解体が必要かを判断します。
残置物の処分費も必要です。土壌汚染や事故物件など、売却価格より大きな負担が隠れていないか専門家に調査を依頼します。
使途を指定された不動産は、団体の事業で直接使えるかも確認します。売却して活動資金にする想定であれば、遺言の文言が売却を許すかを弁護士へ確認します。維持費を払う資金がない場合や処分が難しい場合は、受け入れない判断も必要です。
有価証券と事業資産は換価可能性を確認する
上場株式は価格が分かっても、価格変動と売却時期の判断が残ります。未上場株式には譲渡制限、評価の難しさ、株主としての責任があります。事業用資産や知的財産も、契約上の制限と維持費を確認します。
団体が運用目的で保有するのか、受領後に売却するのかを受入方針へ書きます。換価を前提とするなら、売却費用と税務を差し引いた手取り額まで試算します。
問い合わせから受入決議まで順序を固定する
相談から入金まで長期間空くことがあるため、担当者個人の記憶に頼らない手順が必要です。寄付者の自由な意思を守りながら、団体の責任を果たす順番を決めます。
- 相談内容を記録し、団体から受入や税制優遇を約束しません。
- 法人名、所在地、担当窓口など遺言者と専門家へ渡す基本情報を確認します。
- 死亡後の通知を受けたら、遺言書、遺言執行者、遺贈の範囲、相続人、財産と債務を確認します。
- 弁護士、税理士、不動産などの専門家が法務、税務、換価、維持費を調査します。
- 定款と内部規程に基づいて理事会などが受入または放棄を決議し、理由を記録します。
- 名義変更、売却、会計処理、使途管理を行い、必要な範囲で遺言執行者へ報告します。
遺言者から書き方を尋ねられても、団体が遺言文案の正しさを保証してはいけません。自筆証書遺言書保管制度では、法務局が方式を外形的に確認しますが、内容の有効性までは保証しません。弁護士や司法書士に加え、税理士や公証人などの独立した専門家へ相談するよう案内します。相談先は寄付者自身に選んでもらいます。
受入方針は寄付者へ説明できる形にする
受入方針には、対象となる遺贈の形式と財産を明記します。現金だけ受けるのか、不動産や有価証券も個別審査するのか、包括遺贈を扱うのかを決めます。用途指定、匿名希望、管理・売却費用をどこから負担するかも必要です。
内部では、相談窓口と審査担当を定めます。決裁機関に加え、利益相反と記録保存の方法も決めます。担当者が寄付者の遺言作成者や証人、遺言執行者を兼ねることは避け、団体の利益と寄付者の自由な意思を分けます。高額案件や現物資産では、誰に外部評価を依頼するかも決めておきます。
公開案内には、受入を確約できないことと、法務・税務の専門家へ相談してもらうことを記載します。税制優遇は寄付者の状況で変わるため、対象法人である事実と、個別適用の判断を区別して説明します。
最初は現金と特定遺贈の方針から作る
遺贈寄付は、募集ページを公開することから始めません。まず、現金の特定遺贈を受ける場合の窓口と必要書類を決めます。決裁と使途管理まで一枚にまとめます。
不動産や包括遺贈に加え、用途指定は個別審査にします。自団体が調査費と専門家費用を負担できる範囲で対象を追加します。
最初の受入方針案ができたら、法人の顧問弁護士と税理士へ確認を依頼してください。寄付者へ遺言文案は渡しません。
法人の正確な名称と所在地に加え、相談窓口と受入方針を案内します。独立した専門家へ相談してほしい旨も伝えます。この境界を守ることが、寄付者の意思と団体の運営をともに守ります。